社会人からの異分野大学院進学〜修士〜

大学院で数学をしています.

前期の振り返り〜M1編〜

はじめに

大学院に進学してM1の前期が終わったので,その間に起きた出来事や考えていたことなどを本記事にまとめて振り返りを行います.
(月日が経ったときに後で自分で見返して,「こんなこともあったな」と思い出す様のまとめになります. ですので,皆さんのためになるかは分かりませんがご容赦ください🙇‍♂️)

内容としては,以下について書きます:

  1. 大学院合格から入学まで
  2. 数学への向き合い方(勉強の仕方)
  3. セミナーの準備とセミナー本番

せっかくなので,入学までの期間から振り返ろうと思います.

大学院合格から入学まで

私が受験した時は,面接試験があったその日に合格内定者の発表がありました.
無事,合格内定をいただく事ができたので,お世話になったすうがくぶんかの講師の方々にお礼のメールをしました.
8/20付近が受験日だったのですが,8月頭あたりから全然眠れなくなってしまい,1日の睡眠時間が3時間ぐらいの日々を過ごしていました.
合格内定をいただいた当日は久しぶりに直ぐに眠りにつく事ができました.
(特に不安や緊張は感じていなかったのですが,なぜか頭が冴えてしまい全く眠れませんでした.眠れなくなる前はいつも7時間ぐらい寝ていました.合格内定を貰った日はたくさん眠れたので,もしかしたら自分では気づかずに緊張していたのかもしれません.)

翌日,朝一で先生(指導教員)にお礼と修士で取り組むテーマ(修士で読む本)相談日調整のための連絡をしました. そこから,3週間ぐらいにわたって,テーマ決めのMTGを毎週zoomでしていただきました.
(内容としては,先生から分野を紹介してもらい,それについて調べて,興味を持った内容を伝えるということを繰り返しつつ,段々分野を絞りつつ先生からいくつか本を提示してもらう感じでした.)
最終的に,先生からの提案で,読む本を Gradient Flows In Metric Spaces に決めました.

読む本を決めたので,必要な知識の勉強に移りました.
基本的な進め方は「まず本を読んでいって,知らない単語が出てきたらその分野について勉強する」という感じで進めました(今でもこの進め方です).
入学までに勉強した大まかな内容は以下になります:

  1. 測度論・ルベーグ積分 with 吉田伸夫先生の本:9月〜11月(「絶対連続」という概念が出てきたので)
  2. 関数解析 with 黒田先生の本:12月〜2月(「reflexive banach space」という概念が出てきたので)

数学の勉強以外では,入学までに少しでも貯金を増やそうと思い,退職した会社の別プロダクトでアルバイトとして雇っていただきました.
仕事内容は以下でした:

  • A/Bテストシステム開発(1から)
  • A/Bテスト勉強会をプロダクトの全員(ビジネス・エンジニア両方含め)向けに実施(A/Bをやる意義や実施するときの注意点などを説明)
  • A/Bテスト実施 & 分析 & まとめ を何回か

ありがたいことに,仕事内容に対してベストエンジニア賞(社員さんも含めエンジニアの中からいくつかの側面を考慮して決まる月次の社内表彰)をいただく事ができました.
(この表彰と作ったシステムが継続的に使われていることから,ビジネス的にある程度意味のある仕事はできたかなと思い,嬉しく思っています.)

数学への向き合い方 (勉強の仕方)

まずは自分で定義・命題を考えてみることからスタートします.
具体的には以下のように進めています:

  1. 本を見て,その章でやりたいことのみを知る(e.g. upper gradient の章なら,「関数が与えられた時にその関数の gradient のノルムを上から抑える関数という概念を定義したい.上から抑えるような関数として canonical に考えられるものが存在するから,それがちゃんと upper gradient の定義を満たすような定義にしたい」といった感じ)
  2. 1で抽出した各章のエッセンスに基づいて,自分で定義・命題を作って証明する.
  3. 2の最中にどうしても進まなくなったら,本と自分の定義・命題を照らし合わせる(定義のどこは同じか?どこは違うか?,命題の主張は同じか?仮定はどうか?などを見比べる)

基本的には,上の1~3を繰り返しながら各章を理解する形で進めています.
本に書いてある証明の細部までは追っていません(嘘なのか僕の力が足りていないのか分かりませんが,細部まで厳密に正当化しようとすると,本に書いてある証明が分からないことが多く,真面目に細かいところまで本の通りにやろうとすると時間だけが過ぎる場合が多いためです.)

上のような方法になるまでの過程

最初からこの様な方法だったわけではなく,段々とこのような方法にブラッシュアップされていった形です.
以下で,この様な方法に至るまでの過程を記載します.

本を読み始めた頃は,定義や命題を自分で考えるということは行わず,本に書いてある証明を細かいところまで追うという方法をとっていました.
しかしながら,この方法で進めるとしばしば証明が全く進まなくなる状態に陥ることがありました.
(例えば,Lemma. 1.4「絶対連続曲線ならほとんど至る所 metric derivative が1になるようなパラメータの取り替えが存在する」という主張の証明において,本の証明だと metric derivative が 0 となる点の測度が 0 より大きいような絶対連続曲線に対しては正当化できない手順が存在します).
こういう場合は,一旦諦めて先に進むということをしていました.

4月頭に初めて先生の研究室に挨拶に伺い,セミナーの頻度や形式(対面 or zoom)を相談しました.
その際に,あるremarkを読んだ方がいいのかどうかを質問しました.
(僕の中の感覚として,remarkで紹介されている内容は「本の主題からはそれるから事実として述べるにとどめる細かいお話」がほとんどという印象です.)
そのremarkは,Bochner積分における微積分の基本定理が成り立つ条件についてだったのですが,「これはこの本だと重要だから勉強した方がいい」と回答をいただきました.
さらに,「本を参照しても良いけど,せっかくだったら何も見ずに自分で定義して,命題を作って,証明を与える ということをやったら良いよ」とアドバイスをもらいました.
本を見ないで自分で考えるという発想を持っていなかったので,「なるほど,そんな方法もあるのか」と衝撃を受けた記憶があります.

翌週,質問したremarkの前に1 ~ 2個命題があったので,それを紹介する形でセミナーを行いました.
細かい部分で詰めれていない箇所がいくつか存在し,「そこはどんな定義ですか?」など質問をいただいてしっかり答えられないことがありました.
(人生初めてのセミナーだったので「まぁこんなものだろう」という気持ちはありました.どんどん良くしていけばいいかなと思っていたので.)
また,そのセミナー内で,分かっていない命題について先生に質問したところ,例えばこんな感じで証明できるのではないか?とアドバイスをいただきました.
その方法は本に載っている証明方法とは全く異なるものでした.

上に述べたような,いくつかの個々の経験やアドバイス

  • 何も見ずに自分で定義してみる
  • 定義や証明の手順で曖昧な部分をなくす
  • 本に書いてある証明以外の証明も考える

を意識しながら,セミナーや勉強を繰り返していくうちに,これらが相互に関連し合い,混ぜると良い進め方ができるということに気づき始め,今の勉強方法が確立されました.
強調しておきたいのは,初めから今の勉強方法だったわけではなく,個々の経験やアドバイスを踏まえながら,実践しては考えを繰り返した結果今の形になったという点です.(なので,これからもどんどん形は変わるかもしれません)
(この出来事は,僕の中で,「考えながら走り続けることが大切だな」と感じる一例でした)

セミナーの準備とセミナー本番

セミナーの準備

僕は先生に「セミナーは何も見ずに行います!」と初日に宣言しているので,何も見ないで行っています.
なので,準備に1週間ぐらいかかることも結構あります(話す量によりますが). 時間制限は特にないので,時間内にまとめることは特に気にしていません.話たいことが終わるまで話す感じです.(一番長かったのは,Banach空間値測度の拡張定理を紹介した回で,4時間半行いました.)

勉強した内容が存在している状態で,それをセミナー発表用にまとめることを「準備」とします.
準備の仕方は大体以下です:

  1. セミナーで話たい内容を何も見ずに書き出す(定義や命題の証明など)
    (勉強中に厳密な証明を与えているので,基本的には1回目から何も見ずに書き出すことはできます.)
  2. 1で書き出している最中に感じたことに基づいて,話す内容・言い回しをブラッシュアップする
    (e.g. 「ここの説明が冗長だな」と思ったら簡潔で分かりやすい良い言い回しを考える.証明のモチベーションやイメージで捉えられる部分はその様な説明を入れるが,その言い回しが簡潔になるようにする.定義が分かりづらい部分は具体例を入れて定義のお気持ちを捉えやすくする.)
  3. 1と2を納得いくまで繰り返す

基本的には3 ~ 4回は繰り返し行って,聞いている人が引っかかりなく理解できるような言い回し・内容になる様に仕上げていきます.

セミナー本番

準備してきた内容を話すことがベースです.
ただ,僕はセミナーのライブ感を大事にしているので,内容はそのセミナーの雰囲気によって多少変化します.
例えば,先生が何か補足情報をくれたらそれに対して知っている内容があれば自分からも補足をしたり,逆に知らなければ追加で質問したりします. また,説明しているときに反応が良くないと感じたら,言い回しを少し変えたりしてより伝わりやすい表現に調整したりもします.

個人的な感想ですが,準備中とセミナー本番をあわせて考えたとき,セミナー本番が一番良い説明ができている気がします.
(聞いてくださっている方の反応があるからかもしれませんが)

セミナーの参加者は,先生と同期の2人です.
(同期はこの方1人で,僕とは違う内容に取り組んでいらっしゃいます.僕も同期の方のセミナーに参加し勉強させてもらっています.)

話すのは日本語ですが,板書は英語で行っています.
いずれ論文を書く事を視野に入れているのもありますが,日本語より英語の方が分かりやすいと思っているからです.
(例えば,「Xはコンパクトハウスドルフ空間とする」と日本語で書くと,途中まで書いた段階では,「Xは〜である」のか「Xは〜とする」のか,結論が最後にくるので最後まで書かれるのを待たないといけません.
しかし,英語なら「Let X be a locally cpt. Hausdorff space」となるので,「とする」という結論が書き出しから分かった状態になり,理解しやすいと思っています.)

終わりに

前期終了までの出来事や考えていたことを振り返りとしてまとめました.
後で自分で見返した時に,なるべく当時の情景・心情を鮮明に思い出せるようにするために,詳細に記述したつもりです.
なので,読んでくださった方にとっては冗長かもしれませんが,そう感じていましたら申し訳ございません🙇‍♂️

今後も区切りの良いタイミングで定期的に振り返りをできたらいいなと思っております.