社会人からの異分野大学院進学〜修士〜

大学院で数学をしています.

大学院に合格するためにやったこと

アブスト

本記事では,私が異分野大学院に合格するためにやったことをざっくりと書きます.

私は情報系の出身で,機械学習の応用系の研究室で修士号を取得したのち,データサイエンティストとして1年間働きました. その後,数学の研究をしたいと思い,退職し,大学院数学専攻に進学しました.

その際,大学院合格のために私が意識し行動したことは以下の3つです:

  1. プロに教えてもらう.
  2. 色んな人に話しかけ,積極的に情報を集めに行く.
  3. 院試に受かることを目標に,院試に出ない範囲は勉強しない.

以降,本文では以下2つの項目について,詳細を記載します.

  • どのぐらいの時期に何をしていたのか
  • 上で意識した内容に対し,具体的にどのような行動をとったのか

大学院入試までの時系列

本節では,大学院入試までに行ったことと勉強した内容を時系列に沿って紹介します.
補足:私が大学院進学を意識し始めたのは,院試がある年の3月半ばぐらいからだったのですが,その約3ヶ月前から個別指導で数学を習い始めたのが大きかったのでそこから書いております.

大まかに以下の時系列に沿って以下のようなことを行いました(12月から4月までは社会人として,平日5日間は働いておりました) .

  • 12月中頃:すうがくぶんかさんで個別指導受講開始(位相空間を習う).
    並行して,松坂先生著「集合・位相入門」を読む(基本は独学で進めて,分からなかったところを個別指導の講師の方に質問する進め方).
  • 1月:個別指導継続中.
    「集合・位相入門」を読み終わる.
  • 2月:個別指導継続中.
    難波先生著「微分積分学」に取り組み始める.
  • 3月:個別指導継続中.
    大学院に進んで,もっと数学に取り組みたいと思い始める.そこで,大学院進学にあたり,どんな情報を集めたりどんな行動をすればいいか 個別指導を担当してもらっていた講師の方に相談する.
    微分積分学」継続中
  • 4月:3週目あたりで「位相空間」についての個別指導がひと段落する.大学院進学を踏まえて「多様体」を別の講師の方に習うように調整してもらう.
    大学の先生にzoomでの面談を依頼する.微分幾何に興味を持っていたので,微分幾何の研究をしている先生方を大学のHPから探し,大体10人ぐらいにメールを送る.最終的に6人と面談させてもらう(面談させてもらわなかった先生方は直近でご退官されるとのことだった).
    大体3週目ぐらいまでで面談してもらった.
    志望校を決め,過去問を分析し,勉強する科目・範囲を絞る.例えば,ジョルダン標準形は志望校で出てなかったので勉強しないことに決めた.
    3週目あたりで「微分積分学」を読み終える.加藤文元先生著「線形代数」を勉強し始める.
    勉強に専念するため,4月末で退職する.(理由:面談した結果,院試に合格したら指導してもらえそうと感じたのと,これまでの勉強ペースから会社を辞めて勉強したら院試に間に合いそうと感じたため.ただ,今年受からなくても来年受ければいいやとも思っていた.)
  • 5月:少し間が空いて,2週目から「多様体」の個別指導を受け始める.また,選択科目の相談をし選択科目は「複素関数論」「ホモロジー」「多様体」を選ぶことに決める.
    2週目ぐらいまでで「線形代数」の勉強が終わる(大学生の時,線形代数の計算は嫌というほどやっていたので,計算系は全部飛ばして次元定理や固有ベクトルの理論などのみを勉強した).
    プリンストン複素解析学」を勉強し始める.
  • 6月:「多様体」を個別指導で継続中.
    複素関数論」を6月末ぐらいで終わらせる(これは,過去問に出てきた範囲までしかやってません).
    出願期間があったので願書を準備する.2校に出願する.異分野からの進学なので,志望動機はかなり考え,ふわふわした内容にならず具体的になるように記述した.また,進学してからの学習計画も書く必要があったが,そちらもふわふわした内容にならないように具体的に記述した(会社では新規サービス立案をしていたので,その時に培った,相手に納得してもらう伝え方・言葉遣いを活かしたつもり).
  • 7月:「多様体」を個別指導で継続中.
    6月最終週あたりから,坪井先生著「ホモロジー入門」で「ホモロジー」の勉強を始める.マイヤービートリス完全系列が使えれば院試は大丈夫と個別指導の先生と面談した大学の先生に教えてもらったので,そこまで理解することを目指した.大体3週目ぐらいまででマイヤービートリスまで到達し,2年分ほど過去問のホモロジーの問題を解いてみた.
    ただ,マイヤービートリスがいまひとつわかった気になれず,使いこなせている感じもしなかった.
    面談してもらった先生のうちの一人に「院試の問題で分からない部分があったらお気軽に質問してください」と言われたので,その言葉を信じて,厚かましく,解いた過去問についてのディスカッションを依頼する(3時間ぐらいディスカッションしていただけて本当にありがたかったです.)
    3週目あたりから,過去問の演習を始める.また,演習本も用いた.用いた演習本は以下
    • 大学院への幾何学演習
    • 詳解と演習大学院入試問題〈数学〉: 大学数学の理解を深めよう
  • 8月:3週目に院試があった.
    個別指導での「多様体」の勉強は1週目までで一通り終わり,その後,過去問の解説をしてもらう.
    過去問と上述した本を使って演習を行った.

大体上の感じで,院試まで過ごしました.
勉強量については,詳しいことは覚えていないのですが,

  • 退職する前は,仕事が終わった後と仕事が休みの日はずっと数学
  • 退職してからは,大体,起きてから寝るまで,飲食とお風呂以外は数学

こんな感じでした.

「意識した3つのこと」に対して,具体的に行った行動

この節では,アブストで記載した大学院合格のために意識したことに対して,具体的にどのような行動を取ったかを記載します.

プロに教えてもらう

具体的にとった行動は,すうがくぶんかさんで個別指導受講を始めたことです.
少し厳密に述べると,開始した当初は大学院に行こうとは考えていなかったのですが,結果的に合格するための重要な1つのファクターになったかなと考えております.
頻度としては,1回2時間で毎週受けており,受験直前の7月からは週2回に増やしておりました.
やはり,自分で考えているだけだと得られなかった視点や数学に対する取り組み方などを体験できるのでとても価値があったと思います.
受講料はかかりますが,社会人をしていたことを活用しようと考え,自分に投資しました.

色んな人に話しかけ,積極的に情報を集めに行く

大きく次の3つの行動を取りました:

  1. 大学の先生に面談をしてもらう.
  2. 大学院入試説明会に行き,積極的に質問する.
  3. twitterで志望大学の過去問を持っていそうな方にDMを送って譲ってもらう.

まず1番について,
指導していただくので自分との相性が良さそうか?丁寧に指導していただけそうか?などをみさせていただけるという点で重要だと思います.
また,私は異分野からの進学を希望していましたので,どのぐらい本気なのかを先生に伝えるという意味でも重要かなと考えてます.
特に,私にとってこの行動を取ったことで得られた1番のメリットは「異分野からの進学も歓迎してくれている」と実感できたことです. 実際にお話を聞かせてもらうと,どの先生も「真剣に取り組めばやっていける」という旨のコメントをくださりました.
また,中には,先生が最近取り組んでいる研究の内容を詳細に聞かせてくださった先生もおり,2時間ほどマンツーマンでお話しいただけました.こんな何処の馬の骨ともしれない人間に多くの時間を割いてくれたありがたさと,代数・幾何・解析が入り混じった研究内容を見てより数学の楽しさを感じ,モチベーションにつながりました.

次に2番目について,
院試は「内部生と外部生で情報の非対称性があるから外部生は不利」みたいなお話を聞いたことがあったので,院試関連の質問ができそうな機会は活用しようと思いました.
特に,院試説明会では在学生の方に質問できたので,「過去問は何年分といたか?」「その大学以外の大学院の過去問で解くといいものはあるか?」「試験当日に気をつけるべきことは何か?」など色々質問しました.
質問を重ねていくと,「院試のペーパーテストで失敗しても,ペーパーテスト翌日の口頭試問までにテストの内容を解き直していけば大丈夫」というアドバイスを得られたのはとても大きかったです(これにより,心持ちが結構軽くなりました).

最後に3番目について,
過去問は各大学院のHPで公開されているのですが,私の志望大学は数年分しか乗っていなかったので,内部生の方のTwitterを見つけてそれより前の過去問をいただきました.
HPに載っている過去問では出題されていなかった分野があったのですが,いただいた過去問では出ていたので,試験範囲の見直しが行えました.

院試に受かることを目標に,院試に出ない範囲は勉強しない

志望大学の過去問と本を照らし合わせながら,この科目のここは出る/出ないというのを調べて,出る部分のみ勉強を行いました.
その際,すうがくぶんかの講師の方にも勉強する範囲を相談しました.

「時系列」の節をご覧いただければ分かるように,大学院進学を目指した段階で,私は試験科目に対して勉強できていない科目が沢山ありました.
(具体的には,「微積」「位相」「線形代数」「複素関数論」「ホモロジー」「多様体」のうち,3月終わりでまともに終わっていたのは「位相」ぐらいです.)
なので,過去問に出る範囲に絞って勉強しないと絶対に院試に間に合いません.
数学の勉強方法として,試験範囲のみに絞って勉強するのはどうかな?とも思ったのですが,第一の目的は院試に受かることであり,院試に受かりさえすれば入学までの間で数学に取り組めるのでこのような選択をしました. (実際,面談していただいた先生方にも「まずは院試に受かることが大事です」とお声がけいただきました.)

ただ,勉強範囲は絞りましたが,勉強する必要がある対象については単に暗記するだけではなく,定理のイメージや定義のお気持ちが分かるまでじっくり考えて勉強しました.
というのも,過去の経験から,単に暗記するだけでは絶対に試験で問題が解けるようにならないという感覚があったためです.
(上の感覚を得た経緯:情報系の学部生・修士生だったとき,数学の本を読んで「定義も分かるし,定義から定理も導けるけど,なんかわかった気になれないし記憶にも残らない」という体験を3年ぐらい経験しており,どうすれば数学が見えるようになるのか,すごく悩んでいました.すうがくぶんかの講師の方から数学を学んで,定理のイメージや定義のお気持ちが分かるまで考えると,見える世界が色づいて,記憶にも残りやすいという体験をしました.この経験から,絶対に定理のイメージや定義のお気持ちは最低でも分からないと何も身につかないと考えるようになりました.)

結び

ざっくりとですが,私が大学院に合格する際に意識して行動したことについて書いてみました.
特別なことは何もやっていないと思いますが,(自分の中では)面倒だったりハードルが高い行動を実行したつもりです (例えば,私は初対面の人に話しかけるのがすごく苦手だったので,面談のメールを送るときは毎回とても緊張しましたし,最低3回はメールの内容を見直しました.) . 結果的には,これらの行動で得られた情報のおかげで,院試に対する不安は特に感じずに本番を迎えることができましたし無事合格をいただくこともできました.
やはり,上に挙げたような行動をとることが大切なのだろうなと,院試が終わってからより強く実感しました.
(上で挙げた行動を取ろうと思った経緯:私は元来あまりアクティブではないのですが,社会人として新規プロダクトの立ち上げをする中で得られた経験から,何かを成し遂げる際に重要だと感じたいくつかの項目があります.その中で,「大学院合格」のために応用できそうだと考えた項目を実行したつもりです.)

今回記述した内容が万人に当てはまるとも,絶対的な正解であるとも考えてはおりませんが,もし,この内容がどなたかの役に立てたなら幸いです.